犬と猫の現状について

今後このページに追加されるトピック:
● 欧米の犬猫福祉教育
● ちょっと変わった世界の法律
● 世界の狂犬病事情
● 猫の過剰繁殖
● 飼い主による飼育放棄
● 多頭飼育崩壊
● ペット産業

1. 世界の動物福祉事情

「動物福祉(Animal Welfare)」は、通常産業動物をはじめ伴侶動物等全ての動物の福祉を意味しますが、どの動物がどのように扱われるかは、国やその宗教により大きく異なり、それぞれが課題を抱えています。1965年にイギリスで制定された「5Freedoms(5つの自由)」は、全ての動物の福祉に配慮する基準として、日本を含む各国で取り入れられています。

動物福祉先進国 

宗教家だったマハトマ・ガンジーは、こんな言葉を残しました。

「The greatness of a nation and its moral progress can be judged by the way its animals are treated.(国の偉大さとその道徳的発展は、その国における動物の扱い方でわかる。)」

その国で動物の尊厳と福祉が守られているかどうかは、動物を守るための法律(罰則)の有無や、それが実際に機能しているかどうか、そしてセーフティーネット(保護施設)の仕組み等である程度判断することができます。

欧米の動物を守る法律

イギリスの例
2022年4月、イギリスで2008年以来となるAnimal Welfare(Sentience) Actが制定されました。動物にも感覚や感情がある事を明記し、動物福祉に配慮するための委員会が設けられたことで、政策を見直したり、産業において福祉基準を厳格化することが可能になりました。

アメリカの例
アメリカは州により法律が異なりますが、国としては2019年にThe Preventing Animal Cruelty and Torture(PACT) Actという、虐待を取り締まる法律(7年以下の懲役)が制定されました。中でも動物福祉に関連する法律が多いカリフォルニア州では、同年、販売のために生産された犬、猫、うさぎの生体販売を禁止する条例が可決されました。これにより、現在同州のペットショップでは地域の保護施設から引き取られた犬、猫、うさぎのみが展示販売されています。

カナダの例
カナダも州により法律が異なりますが、国としては2023年に化粧品の動物実験を禁止する法が可決され、12月から施行されました。動物福祉に関して一番厳しい法が制定されているオンタリオ州では、2019年にProvincial Animal Welfare Services(PAWS) Actが可決され、伴侶動物以外に、動物園や牧場等を含む全ての動物を調査する権限が与えられた調査員のチームが設けられました。この条例では、動物虐待(身体的、精神的苦痛を含む)やネグレクト、飼育放棄、闘犬や動物の賭け、動物への性行為に対して、2年以下の懲役又は1,400万円以下の罰金が課せられます。

ディクロー/抜爪手術について

「ディクロー/抜爪手術(ばっそうしゅじゅつ)」とは、主に飼い主の希望により、猫が家具や人を引っ掻くことを防ぐため、猫の爪(人でいう指の第一関節から先)を切断する手術のことです。爪は猫にとって本能的行動を取るために必要不可欠であり、切断する事により歩行に支障を来たしたり、痛くてトイレの砂が使えなくなる事があります。

ディクローは少なくとも42か国(※1)で非人道的行為として禁止されていますが、日本での規制はありません。ディクローは他の手術に比べ、短時間で終わり単価が高い手術です。爪切りの大変さや家具へのダメージを理由に、積極的に手術を勧める病院や獣医師も存在します。もし勧められても気軽に決めず、ディクローのメリットとデメリット(リスク)を書き出しましょう。誰が何をするための爪で、誰にとってのメリット、デメリットでしょうか。一度切断された爪は、二度と元には戻りません。今後、数年〜10年、20年と生きる猫の健康を考え、周りの人にも相談してみましょう。
※1:2023年12月時点

セーフティーネット

動物福祉先進国といわれる国でも、行き場を失う犬や猫は後を絶たちません。多くの国で共通して多い「やむをえない飼育放棄」の理由は、①飼い主の高齢化(死亡または施設への入所)と、②飼い主の引越しです。(欧米ではペットと共に入所できる老人ホームや、ペット可の賃貸も多数あります)

欧米では各地域に自治体や民間のシェルターがあり、例えばイギリスでは、シェルターから里親になることが最も多いペットの入手方法で、2023年には約150万匹の保護動物が譲渡されました。各地域のシェルターはセーフティーネットとしても活躍し、里親を含め飼い続けられなくなった市民は地域のシェルターに相談し、次の里親に繋ぎます。また「飼育継続不可になった場合の「シェルターへの返還」を、譲渡契約書に記載するシェルターも珍しくありません。

2. 日本の現状

2021年度に全国の自治体施設に収容された犬と猫は、犬が24,607匹、猫は44,514匹でした。全国の民間団体や個人に保護された頭数を合わせると、その数は計り知れません。一体なぜこれほど多くの犬や猫が行き場を失うのでしょうか。※統計の最新情報は、環境省ホームページ「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」でご確認ください

犬や猫が行き場を失う社会の仕組みの全体を見ると、犬と猫では異なる課題があり、解決にはそれぞれに合った方法が必要である事がわかります。

自治体施設の役割

都道府県や政令指定都市・中核市等の地方自治体は、保健所や管理所、動物愛護センターとして、それぞれが管轄のエリアで以下の業務を行っています。

自治体の業務内容

1. 10年毎に「動物愛護管理推進計画」を制定
<構成>
⑴施策の基本的な方針
⑵動物の適正な飼養及び保管を図るための施策に関する事項
⑶災害時における施策に関する事項
⑷必要な体制の整備に関する事項
⑸普及啓発に関する事項
⑹その他必要な事項

2. 犬および猫の引き取りと負傷動物の収容
犬や猫の引取りを求められた場合、引取りを行う。(ただし終生飼養の原則に鑑み、繰り返し引取りを求められたり、動物販売業者から引取りを求められた場合には、引取りを拒否することができる)
公園など公共の場所で病気や怪我を負った犬や猫などの負傷動物の収容を行う。

3. 動物愛護管理センターと動物愛護管理担当職員の配置
<業務内容>
⑴動物取扱業の登録・届出・監督に関すること
⑵動物の飼養者・保管者に対する指導、助言、勧告、命令、報告徴収、立ち入り検査に関すること
⑶特定動物の飼養・保管の許可、監督に関すること
⑷犬及び猫の引き取り、譲渡等に関すること
⑸動物愛護管理に関する広報、その他の啓発活動
⑹その他動物愛護及び適正飼養のために必要な業務

4. 動物愛護推進員と協議会
動物愛護推進員は、飼い主などに対する動物の適正な飼養の助言、繁殖防止の助言、譲渡のあっせん、国や都道府県等の施策への協力、災害時の動物の避難・保護等に必要な協力やその他の活動を行う。

「殺処分ゼロ」の落とし穴

殺処分とは、自治体に収容される犬や猫を処分する方法の一つです。自治体に一度収容されると、出口は⑴飼い主への返還、⑵市民や提携団体への譲渡、⑶殺処分、の3つしかありません。殺処分ゼロとはその出口の一つを塞ぐ事を意味しますが、収容数が十分に減っていない状態で「殺処分ゼロ」を目指すと、様々な問題が生じます。収容された動物は施設内に溜まって過密状態になり、犬同士の咬傷事故が発生したり、1匹にかけられるお世話の時間が減ることによる全頭のQOLの低下、毎年殺処分していた頭数分の団体譲渡が増えるなど、結果的に動物や民間団体に負担が押し寄せる事例も発生しています。また、不治の病や重度の怪我に苦しむ動物を痛みから解放する安楽死という人道的な選択肢も奪うことに繋がります。

引き取り数が適正飼養できる頭数を超えた場合、自治体や民間に限らず、福祉に配慮したQOLを維持することが困難です。たとえ殺処分を免れても、劣悪な環境で保護することは動物虐待にあたります。保護動物は本来、里親に譲渡する際と同じレベルの生活水準でなければなりません。「健康的な個体の殺処分数をゼロにする」ことは、より良い社会をつくる(より多くを救う)目標に繋がる過程として、そもそもの収容数削減に取り組むことが重要です。

生体販売

犬や猫の生産販売を禁止する法律が欧米で制定される中、日本のペット関連総市場規模は1.7兆円を超え、生体やペット用品の販売額も増加傾向にあります。日本では「里親として保護動物を迎える」選択肢を知らない市民も多く、18歳以上であれば学生でも独断で子犬や子猫を買う事ができます。

子犬や子猫を販売する業者には、ブリーダーや店舗型ペットショップ、インターネット販売まで様々な業態があります。利益優先の業者による繁殖や販売過程で、動物福祉の配慮に欠けたり適切な医療を受けさせない、劣悪な環境で飼育するなどの懸念があることから、近年生体販売のあり方自体が社会問題となっています。

販売業者の種類と特徴

<ブリーダー>
1. プロフェッショナルブリーダー(優良ブリーダー)
● 特定の品種の健康、遺伝的特性等を維持・向上することを目的とする
● 動物の「健康診断、遺伝病のスクリーニングを行い、適切な環境で飼育・質の良い繁殖を目指す
● 特定の品種に専念し、長期的な繁殖計画を持つ

2. ホビーブリーダー
● 自身が飼育する動物の繁殖を趣味として行う
● 責任ある繁殖を行う人がいる一方で、専門知識に欠ける課題がある

3. バックヤードブリーダー
● 一般的に、正式な繁殖計画や十分な知識がない状態で繁殖を行う
● 動物の健康や遺伝的問題への配慮に欠ける場合が多い

4. パピーミル
● 利益を最優先に、動物の福祉を無視した大量繁殖を行う
● 劣悪な環境、不適切な医療、過度な繁殖など、多くの問題が報告されている

<ペットショップ(店舗販売)>
● 大手チェーンはペットオークション(競り市)を利用し、数十〜数百匹単位で購入した個体を、離島を含む全国の店舗へ発送する
● 流通過程で2万6千匹の子犬や子猫が死亡する問題
● 大手ショッピングモールと提携している販売業者は、自社の繁殖場を設けている
● 利益目的で衝動買いを促したり、適正飼養の説明の欠如等が報告されている
● セールを経ても一定数の売れ残りが発生する懸念
※日本に数店舗、保護施設と提携し保護動物を展示する店舗がある

<インターネット販売>
● 対面での現物確認や、義務である「事前説明が必要な18事項」を怠る懸念
● 衝動買いを促す懸念

欧米では営利目的で繁殖された犬、猫、うさぎをペットショップで販売することを禁止する法律を制定する国も増えており、地域のシェルターから保護動物の里親になったり、責任を持って繁殖・販売を行うプロフェッショナルブリーダー(優良ブリーダー)から取得するのが一般的です。

責任を持って繁殖・販売する業者の特徴

● 動物の健康と福祉を最優先し、適切な医療、栄養、運動、社会化を与える
● 遺伝的問題を防ぐため、繁殖前に健康診断やスクリーニングを行う
● 特にメスの健康と福祉に配慮した間隔で、限定的な繁殖を行う
● 新しい飼い主に対し、適切な飼育方法、健康管理、行動への理解について教育し、長期的なサポートを行う
● 清潔、安全で十分なスペースがある飼育環境で管理する
● その動物に適切な家庭にのみ販売し、販売後も動物の福祉をサポートする
● 繁殖プロセス、健康管理の記録、親犬・猫の情報などを公表できる状態にし、訪問を歓迎する
● 動物の遺伝的多様性と品種の健康の維持に努める
● 適用される法律や倫理基準を厳守し、必要な許可の取得や登録を行う
● 販売した動物が生涯適切なケアを受けることを保証し、必要に応じて動物を受け入れる(引取る)※ブリーダーによる

動物取扱業者の義務

第1種動物取扱業の規制
 第一種動物取扱業を営む者は、事業所・業種ごとに都道府県知事または政令指定都市の長の登録を受けなければなりません。また、動物の管理の方法や飼養施設の規模や構造などの基準を守ることが義務づけられています。第一種動物取扱業者は命あるものである動物を扱うプロとして、より適正な取扱いが求められます。申請手続等については、管轄の都道府県又は政令市の動物愛護管理行政担当部局にお問い合わせください。(地方自治体連絡先一覧

販売時の対面説明
動物(哺乳類・鳥類・爬虫類)を販売する場合には、あらかじめ、動物を購入しようとする者に対して、事業所において、その動物の現状を直接見せる(現物確認)と共に、その動物の特徴や適切な飼養方法等について対面で文書(電磁的記録を含む)を用いて説明(対面説明)することが必要となります。(例えばインターネット上のみで売買契約を成立させることは禁止されています。)
対面での事前説明が必要な18事項

守るべき基準の概要は以下の通りです。自治体によっては、地域の事情に応じて、独自の措置が追加されている場合があります。

1.飼養施設等の構造や規模等に関する事項

  • 個々の動物に適切な広さや空間の確保
  • 給水・給餌器具や遊具など必要な設備の配備

2.飼養施設等の維持管理等に関する事項

  • 1日1回以上の清掃の実施
  • 動物の逸走防止

3.動物の管理方法等に関する事項

  • 幼齢動物の販売等の制限
  • 動物の状態の事前確認
  • 購入者に対する現物確認・対面説明
  • 適切な飼養または保管
  • 広告の表示規制
  • 関係法令に違反した取引の制限

4.全般的事項

  • 標識や名札(識別票)の掲示
  • 動物取扱責任者*の配置
* 動物取扱責任者とは
専属の常勤職員のうち、業務を適正に営むために十分な技術的能力及び専門的な知識経験を有する者として、一定の要件を満たした者です。

5.犬猫等販売業に関する上乗せ基準

  • 犬猫等健康安全計画の策定と遵守
  • 獣医師との連携の確保
  • 販売困難な犬猫についての終生飼養の確保
  • 56日齢以下の販売制限

出典:環境省ホームページ(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/trader.html

生体販売の課題

犬や猫の生体販売はどのような流れで行われ、その過程でそのような課題が考えられるのでしょうか。社会問題とされている、利益を最優先に大量生産を行う繁殖・販売業者の流通過程を一例として、考えられる課題を挙げてみましょう。

【生産から販売後までの流れ】
  1. 繁殖用の犬や猫の入手・飼育

    課題
    劣悪な環境での飼育・繁殖

  2. 交配

    課題
    劣悪な環境での飼育・繁殖
    過剰繁殖(母体への負担)
    遺伝性疾患の懸念

  3. 妊娠・出産

    課題
    劣悪な環境での飼育・繁殖
    低いQOL(必要な医療を受けられない等)
    過剰繁殖(母体への負担)

  4. 育成・出品(ペットオークション)

    課題
    劣悪な環境での飼育・繁殖
    流通過程での死亡数
    早期離乳の問題
    柄のバランス等規格外の”欠陥”商品
    大量生産大量破棄

  5. 保管・展示(ペットショップ)

    課題
    低いQOL(犬は散歩させない、長時間ライトで照らされる負担、隠れる場所がない等)
    展示販売による個体への負担
    衝動買い促進

  6. 販売(ペットショップ、インターネット上)

    課題
    低いQOL(犬は散歩させない、長時間ライトで照らされる負担、隠れる場所がない等)
    適正飼養、問題行動、社会化
    購入後のトラブル(健康状態等)
    高齢者や学生への販売(終生飼養の)
    対面事前説明18項目(販売側の義務)の未規制

  7. 販売後初期

    課題
    適正飼養、問題行動、社会化
    購入後のトラブル(しつけ、純血種にかかりやすい病気)

  8. 販売後数年〜

    課題
    適正飼養、問題行動、社会化
    購入後のトラブル(健康状態等)
    高齢者が幼齢を購入できる仕組み

  9. 繁殖用動物の引退

    課題
    劣悪な環境での飼育
    身体への負担
    低いQOL
    高齢者の飼育問題

大切なのはQOL

犬と猫の現状はそれぞれに異なる課題があり、一筋縄ではいかない社会問題の一つです。まずは現状を知ることが大切で、知れば一人ひとりの行動が変わり、根付く文化となって社会を変えるでしょう。

現在は、繁殖された子犬を「可愛い」と買う人がいる一方で、狭いケージ内で子犬を産み続けてボロボロの繁殖犬をレスキューする人がいます。殺処分を免れたものの劣悪な環境で保護されていたり、感染症のキャリアを理由に譲渡を断念され生涯ケージで生きることを強いられている猫も多く存在します。

生産販売される命から、保護される動物、活動する側(人)の全てに共通する点は、どの立場でも、そのQuality of Life(生活の質)が大切、ということ。犬や猫は自身で行き先・生き方を選べないからこそ、私たちがその尊厳を守り、福祉に配慮する必要があります。