野良猫の数を減らしたい方へ(バキュームエフェクト)

“野良猫による被害”

自治体施設や活動家に寄せられる相談の中に、“野良猫による被害”があります。どの地域にも、似たような内容で悩む住民や飲食店の方々がおられます。

飼い主のいない猫による被害(一例)

● 庭/花壇を荒らされる
● 発情期の鳴き声やスプレー行為
● 敷地内での繁殖や糞尿
● ゴミを漁る
● 衛生害虫の発生
● 財産(車や建物)での爪研ぎ
● 猫が集まる事で起こる、喧嘩による怪我や感染症、交通事故の増加

※出典:船橋市、新座市、川越市をはじめ自治体ウェブサイト
※被害への対策として、猫の敷地内への侵入防止グッズの貸し出しや、餌を与える人を対象とした啓発ポスター/チラシを配布している自治体もあります。詳しくは、お住いの自治体へお問い合わせください。

 
猫は犬と違い、飼い主による自治体への登録義務がなく、放し飼いを規制する法制度もありません。外にいる猫は、飼い猫と飼い主のいない猫の区別ができないことなどが理由で、保健所や公的機関では猫の捕獲や積極的な収容を行いません。では、どうすれば猫による被害を軽減できるのでしょうか。

今すぐにできる対策として、各都道府県の自治体ホームページに「猫が庭などに入らないようにする方法」が掲載されています。そのリストを実際に試した方によると、「ハーブ(グランドカバー)を植える」には効果があり1ヶ月以上糞尿を見なくなった、一方で「①竹・木酢液、②忌避剤、②猫よけシート」は別の場所に糞尿をするようになった、との報告もあります。そして参考までに、一番効果があったのは「自然と共存する思いで、庭に猫用トイレを設置した事」だったそうです。

そして猫の頭数をコントロールし、根本的に解決する方法も推奨されています。世界最大級の動物保護団体ヒューメイン・ソサイエティーの研究では、被害の報告がある地域でTNR(野良猫を不妊手術して元の場所に戻す事)を実施することで、その地域に住む猫の鳴き声や喧嘩、発情期のスプレー行為による匂いや糞尿被害等を著しく軽減と報告されています。

外で猫が増える理由

そもそもなぜ猫は増えるのでしょうか。その理由は、⑴繁殖力と、⑵それを助長する要因にあります。

繁殖を助長する要因

1. 豊富な食料
繁殖助長のカギとなる要因。生ゴミや餌場にアクセスがあり豊富な獲物が得られる環境では、健康を維持しやすく、繁殖に必要なエネルギーを得られる。
2. 隠れ家
子猫を育てるために必要な「安全で温かい場所(空家、植物が生い茂る場所、住民が設置する猫用ハウスなど)」は、子猫の生存率を高める。
3. 温暖な気候
温暖な気候により繁殖シーズンは長くなり、一度に産む子猫の数も増える場合がある。
4. 少ない天敵
カラスを含め子猫等を狙う天敵や、交通量が少ない地域では、子猫の生存率が高まる。
5. TNRをしない
不妊去勢手術をしない地域では、猫の数は増え続ける
6. 人との交流
住民や観光客が、野良猫の不妊去勢を行わずに餌やりをする地域では、猫の繁殖が加速する。
7. 高い生存率
上記などの理由で子猫の生存率が高い地域では、野良猫の数は増え続ける。


猫は生存率が低いため、繁殖力が非常に高く、メスはその多くが生後4〜6ヶ月で性成熟を迎えます。ヒトや犬などの多くの哺乳類が自然排卵なのに対し、猫は発情期の交尾の刺激で排卵するため妊娠率も非常に高く、1匹の妊娠猫から約4-8匹の子猫が生まれます。それらが半年で発情・出産した場合、1年で20匹、3年で2,000匹以に増える計算になります。

アメリカの研究によると、屋外で生まれた子猫の約75%は、交通事故や捕食、感染症等により、生後半年に達する前に死亡すると言われています。しかし、餌だけを与える人や飲食店の残飯など、猫にとっての食料が豊富で、さらに空き家などが多い地域は、そうでない地域に比べて子猫の生存率が高まり、病気や気候に耐えられる健康状態になるため、結果的により多くの繁殖に繋がります。

バキュームエフェクトとは

猫の被害に悩む地域では、その対策として「猫を駆除する案」が出ることがあります。しかし猫の生態に詳しい専門家は、「猫を駆除してもあっという間に頭数が元に戻り、また増え続ける」と言います。一体どういうことでしょうか。

猫は縄張りを持つ動物で、例えばお住いの地域(縄張りA)の野良猫は、他の地域(縄張りB)から、より多くの野良猫が移り住まないよう日々縄張りAを守っています。しかし、捕獲等で縄張りAの猫がいなくなった場合、縄張りBから未手術(繁殖可能)の猫が移り住み、やがてお住いの地域で縄張りBの猫たちが繁殖を始めます。これを、バキュームエフェクトと言います。

では、猫で悩む地域ではどうすればいいのでしょうか。野良猫の頭数を減らすために最も効果的と言われているのが、TNR(ティーエヌアール)です。

着実に野良猫を減らす方法

TNRとは、ある地域の野良猫を(1)捕獲し、(2)不妊去勢手術を施し、(3)元の場所に戻すことで、他の縄張りから未手術の猫が移り住み繁殖すること(バキュームエフェクト)を防ぎ、結果的に少ない頭数を維持する方法です。

お住いの地域でTNRを実施し、少ない頭数を維持したい場合は、管轄の自治体や動物保護団体、またはTNRの有料サービスがあるスペイクリニック等にご相談ください。自治体で団体を紹介してもらえる場合もありますが、地域の保護団体がわからない場合は、「○○市 猫 団体 TNR」などで検索してみましょう。また、TNRには通常猫の手術代等費用がかかりますが、手術をする病院や市の補助金制度によっても金額は異なります。毎年繁殖に悩んだり、庭や建物への損害、それらによる精神的ストレスを考えると、TNRによる根本の解決を検討されることを推奨します。

相談先に伝えること

● 野良猫で困っていること(被害内容)
● TNR(ティーエヌアール)を希望している事
● 把握している野良猫の頭数
● 餌やり(野良猫に餌を与えている人)の有無
● 予算

TNRの効果

TNRは、その地域に新入りの猫が現れた際にも継続して実施する事で、5つの点で地域環境の改善にも効果的とされています。お住いの地域の改善や社会貢献の一環として、検討される方々も増えています。

  1. 苦情の減少
    TNRを実施したコミュニティでは、野良猫に関する苦情が減少し、苦情を対応する自治体職員への負担削減にも繋がります
  2. 収容/殺処分数の減少
    自治体施設や民間団体で収容される数は、TNRを実施し減らすことができ、それに伴い自治体での殺処分数や民間団体での安楽死数も減少します
  3. コスト削減
    自治体施設で収容された犬や猫は、市民の税金を利用し、管理(飼育/医療)・処分(変換/譲渡/殺処分)されます。収容数の削減に繋がるTNRは、同時にコスト削減にも繋がります
  4. 公衆衛生
    日本ではワクチン接種まで追いついていませんが、TNRで手術とともにワクチンを接種することで、集団免疫を上げ、病気や感染症まん延のリスクが減少し、公衆衛生の安全に寄与します
  5. コミュニティの参加
    TNRは地域のボランティアやコミュニティメンバーの参加を促し、動物福祉に対する共同責任感とコミュニティ意識を育みます

TNRを依頼したい

お住いの地域により、有料でTNR代行(捕獲からリリースまで)を依頼できる団体やスペイクリニック、サービスがあります。そして、TNRは術後の猫を元の場所に戻して終わりではありません。TNRとは、本来そのコミュニティで継続して地域猫を見守ることで効果を発揮する取り組みであり、リリース後の給餌や片付け等を行う方(餌やりさん)が必要です。

外で猫が増えてお困りの場合、出産を繰り返すメス猫を不妊手術することも大切ですが、また別の猫が来て出産を繰り返さないよう、餌やりさんの有無や、全体の頭数、飼い猫の放し飼いがないかどうか等の情報収集をした上で依頼/相談すると良いでしょう。餌やりさんがいる場合は、餌付けの協力が得られるかも相談しましょう。

TNR代行ではなく、保護団体や個人活動家にTNRの相談/依頼をする際は、時間、労力、費用がかかることを理解した上で、費用負担や物資支援、術後休ませる場所の提供等、ご自身にできることを事前に伝えましょう

共存を目標に

私たちが暮らす街は、同じ場所で暮らす様々な生き物や植物と互いに影響し合い成り立っています。外で生きる猫に悩まされている方々は、まずは無理なくできる対策から取り組みましょう。一人ひとりが「自分だけ」でなく、周りにも配慮し優しい存在でいられれば、きっとより良い地域になるでしょう。共存は、ほんの少しの譲り合いからでも始められます。