犬猫福祉講義について

学ぶ機会がない日本

動物福祉先進国といわれる欧米では、子供たちの成長過程で保護動物を知る機会があり、全く知らずに育つことの方が難しいと言えます。

欧米の子供たちが保護動物を知るきっかけ

・学校教育
シェルター職員が保護犬とともに定期的に学校を訪れて授業を行ったり、高校のボランティア時間(必須)の選択肢に地域のシェルターが含まれるなど
・メディアやSNS
・地域のボランティアプログラム
身近な大人が地域のシェルターでボランティアをしたり、地域住民を巻き込んでTNRへの理解を広めるイベントを行うなど
・家庭環境
家族や親戚がシェルターから迎えた動物を飼っている
・街中で見かけるキャンペーンや広告
スーパーやペットショップで里親募集のチャリティーイベントを見かけたり、動物虐待に関する広告を目にするなど

一方日本の子供たちは、私たちにとって最も身近ともいえる犬や猫のことを学ぶことなく大人になります。ペット禁止の物件も多く、例えば放し飼いや外に繋ぎっぱなし(ネグレクト)といった飼い方が一般的な地域で育てば、大人になってもその飼い方に疑問を抱かない人は多いでしょう。

教育機関において、犬や猫に関する授業を行うことは難しいと思われますが、自分より立場の弱い命について学び、思いやる気持ちを育む事は、社会問題とされるいじめの防止にも繋がります。アメリカでは、子供たちが動物福祉を学ぶことでその後の行動に現れるポジティブな変化についての研究がされています。それによると、⑴共感、⑵思いやりと親切心、⑶責任とケア、⑷怒り/攻撃的な感情の減少、⑸社会性、の5つの項目でプラスの影響があるとされ、子供たちの発達に合わせ保護動物と触れ合える様々なプログラムも行われています。

保護動物への読み聞かせ

アメリカでは多くの地域で、「シェルター バディーズ リーディング プログラム」が開催されています。これは6〜15歳までの子供たちが地域のシェルターに行き、犬舎など保護動物のケージの前で本の音読を行うプログラムです。保護動物は人と触れ合う事でより譲渡されやすくなり、子供たちは読む事に自信を持てるようになったり、間違う事を恐れず読む練習を行う事で、結果的に成績が上がったケースも報告されています。

命の授業

日本ではまだ珍しい事ですが、動物福祉団体や自治体による「命の授業」やワークショップなど、犬や猫の福祉により力を入れている地域では、少しずつ学びの機会が増えているように思います。その内容は犬や猫の現状から殺処分、生体販売など様々ですが、子供たちがその時間で何を学び、その後の行動にどう繋がるかがポイントとなるでしょう。

犬猫福祉の啓発に取り組む動物福祉団体Pawer.は、子供から大人までが現状を学び、行動する前に「自分で考える力」を養うための授業・ワークショップを行っている団体です。授業は日本語と英語の両方で対応しているため、授業の課題で動物福祉を取り上げたり、高校や大学でゲストスピーカーとして招いてみるのも良いかもしれません。(DMで問い合わせる

まずは知ることから

「知らなかった」という事は簡単ですが、私たちが知っているだけで、生涯が180度変わる命があります。それが、飼い主のいない保護動物です。ペットショップで犬や猫を購入した人の中には、「保護動物について知らなかった」、「知っていたら里親になっていた」と後悔する方々も少なくありません。

私たちが暮らす社会では動物たちがどのように扱われ、改善するためには私たちに何ができるのか。子供の頃にこれらを考える機会があるかないかでは、本人だけでなく、その周りの大人や動物たちにまで少なからず影響するでしょう。思いやりの心が一人ひとりから波紋のように広がっていく、そんな社会作りを目指したいですね。