TNRについて

TNRとは

TNRとは、それぞれ「T=Trap(捕獲)」、「N=Neuter(不妊去勢手術)」、「R=Return(元に戻す)」の頭文字をとった通称で、地域に住む猫の頭数をコントロールする人道的な方法として、1960年代にイギリスで始まりました。その後1990年代にアメリカでも広まり、今では日本を含む多くの国で実施されています。

欧米では、不妊去勢手術とワクチン摂取、耳カットがTNRの基本とされ、それ以外に狂犬病予防ワクチンやマイクロチップの装着をする団体もあり、通称も団体や地域によって異なります。

TNR以外の通称

・術後のマネージメント(個体管理)の頭文字をとって「TNRM」
・術後のリカバリー(療養期間)の頭文字をとって「TNRR」
・ワクチン(Vaccine)の頭文字をとって「TNVR」

またアメリカでは、TNRが地域住民による取り組みなのに対し、シェルターが一旦野良猫として収容し、その後不妊去勢手術等を施して発見された場所に戻す取り組みを、「Return To Field(いた場所に戻す)」の頭文字をとって、RTFといいます。日本ではRTFは行われず、通常不妊去勢手術と耳カットのみのTNRが行われ、「地域猫活動」と呼ばれることもあります。

TNRでは、ある地域の野良猫を(1)捕獲し、(2)不妊去勢手術を施し、(3)元の場所に戻します。手術済みの猫は「地域猫」と呼ばれ、地域猫を元の縄張りに戻すことで、他の縄張りから未手術の猫が移り住み繁殖すること(バキュームエフェクト)を防ぎ、結果的に少ない頭数を維持します。(※バキュームエフェクトのページは、猫嫌いの方々に伝わりやすいよう記載を工夫しています)

猫は繁殖能力が非常に高いため、全体頭数がコントロールできるのは、縄張りの75〜90%以上が手術済みである場合とされています。そのため目の前の数匹だけを手術するのではなく、そのエリアに住む全頭を目標に、新入りや子猫等も含めてTNRし続けることが重要です。

ただし、TNRが猫全体の頭数コントロールを可能にしたり、生殖器系の病気予防になる一方で、手術は個々の体調やホルモンバランスに影響します。オスは攻撃性が弱まったり繁殖期の鳴き声等が治まると言われていますが、ある日突然捕獲や手術をされる1匹1ぴきの猫にとって、TNRはとても怖い体験で心身に負担がかかります。捕獲とリリースを繰り返す機械的な作業としてではなく、より人道的な捕獲器を使用したり、術後に十分な療養期間や栄養価の高いフードを与えるなど、個々の回復/体調管理に配慮しましょう。

TNRの本来の目的

TNRは以下2ステップのサイクルからなる取り組みであり、どちらも継続することで本来の目的を果たします。

本来の目的

野良猫の数を人道的に管理・減少させると同時に、地域猫や住民の福祉を向上させ、地域社会での共存を目指す

<目的達成のステップ>
ステップ1:縄張りにいる未手術の猫を不妊去勢しリリースする(元の場所に戻す)
ステップ2:リリースした猫の管理(給餌/片付け等)を続け、不妊手術対象となる新入り

両ステップを継続するために必要なのは、地元のボランティアや市民が協力し、地域単位でTNRを続ける、“1人あたりの負担が少ない活動”です。ステップ2(術後管理)の基盤がない地域でTNRのみが実施されても、長期的な地域環境改善の効果は小さく、術後の給餌や健康管理が行われない面でも懸念が残ります。

継続したTNRの実施は、5つの点で地域環境の改善にも効果的とされています。

  1. 苦情の減少
    TNRを実施したコミュニティでは、野良猫に関する苦情が減少し、苦情を対応する自治体職員への負担削減にも繋がります
  2. 収容/殺処分数の減少
    自治体施設や民間団体で収容される数は、TNRを実施し減らすことができ、それに伴い自治体での殺処分数や民間団体での安楽死数も減少します
  3. コスト削減
    自治体施設で収容された犬や猫は、市民の税金を利用し、管理(飼育/医療)・処分(変換/譲渡/殺処分)されます。収容数の削減に繋がるTNRは、同時にコスト削減にも繋がります
  4. 公衆衛生
    日本ではワクチン接種まで追いついていませんが、TNRで手術とともにワクチンを接種することで、集団免疫を上げ、病気や感染症まん延のリスクが減少し、公衆衛生の安全に寄与します
  5. コミュニティの活性化
    TNRは地域のボランティアやコミュニティメンバーの参加を促し、動物福祉に対する共同責任感とコミュニティ意識を育みます

TNRの効果

アメリカや日本では、様々なTNRの効果が研究/発表されています。
・ニューメキシコ州:TNR開始後8年間で、殺処分数が84%減、収容数は38%減
・ケンタッキー州:8年間で24,697匹をTNRし、自治体施設の収容数は58%減、殺処分率は96.1%減少
・アラバマ州:TNR開始後7年間で、施設での殺処分数が3,935から165に減少
・千代田区:TNR開始11年後に殺処分ゼロ達成、猫の路上死体数が30分の1に減少

耳カットとは

TNRで手術された野良猫は、手術済みの証として、通常オスは右耳、メスは左耳の先端をV字にカットされます。すでに譲渡先が決まっている猫は、里親さんの希望でカットをしない場合もあります。耳カットがある野良猫はTNR対象外とし、捕獲器にかかった猫に耳カットがあった場合はその場でリリースしましょう。しかし、手術済みでも耳カットがない場合があるため、耳カットがない手術歴不明の個体を捕獲した際は、スペイクリニック等で確認しましょう。(不妊去勢手術等を依頼した猫が手術済みだった場合、麻酔代と耳カット代がかかります)

V字の耳カットは、その形から「さくら耳」と呼ばれることがあり、さくら耳の猫は「さくらねこ」と呼ばれます。猫は喧嘩の際に耳を噛まれることも多く、耳カットと咬傷の違いをわかりやすくするため、欧米では自然界で作れない形として、耳の先端をまっすぐに切る方法が一般的に採用されています。

堕胎(だたい)について

堕胎とは、人でいう中絶のことで、TNRで避けて通れない課題です。捕獲された猫が妊娠していた場合、そのほとんどが堕胎になります。野良猫の妊娠率が高い(堕胎が多い)時期は3〜4月の繁殖期です。人の事情ですが、この時期を過ぎると、生まれた子猫たちも後にTNRしなければならず、地域全体の頭数や生後間もなく死亡する猫は増え続ける一方です。

堕胎しないケース

・妊娠後期で、堕胎が母猫の命に関わる場合
・子猫がいつ生まれてもおかしくない状況で、TNR実施者が産ませると判断した場合
・堕胎をしない獣医師や活動家の場合
・子猫たちの譲渡先が既に決まっている場合

アメリカの研究によると、屋外で生まれた子猫の約75%は、生後半年を迎える前に死亡します。交通事故や感染症、気候の変化、食糧難、縄張り争いの喧嘩など、外の環境は厳しく、生き抜くことは難しいのが現状です。生まれて間もなく死亡する子猫を減らす人道的な方法として、上記の“堕胎しないケース”を除き、欧米でも堕胎が推奨/実施されています。

TNRに適した時期:10-11月 

TNRは猫が繁殖している地域で検討されることが多いため、頭数を増やさないという意味では、気付いた時点で実施するのがベストです。しかし、実施時期を検討する余地があり、より猫の健康状態に配慮する場合は、(1)妊娠率が低く、(2)術後の回復に影響が出にくい時期を選びましょう。

猫の妊娠率や時期は、その地域の気候や食料源の有無等によって異なるため、一概には言えません。しかし、一般的に3月と4月の妊娠率(堕胎率)が1年で最も高く10〜12月が最も低いとされています。(※地域により異なります)猫にとって“寒すぎる”気温は7℃以下で、寒い時期は免疫も下がるため、冬の前に手術することが適していると言えます。

TNRの流れ

TNRはその地域に住む猫だけでなく、糞尿被害や鳴き声を減らしたり、地域の福祉的意識向上やボランティア同士の交流が深まるなど、コミュニティ全体にも良い影響を与えます。実際にTNRを始める際の流れは、TNR歴が長いアメリカの方法を参考にした、以下ガイドラインに記載しています。

【TNRガイドライン】
  1. 捕獲の準備

    <1.基本情報>
    ◆一般的に、野良猫は人を警戒する生き物 屋外で生活する猫が人を怖がることはもちろん、捕獲や病院での経験は、猫が命の危険を感じるほど怖い体験です。猫は自分で今どうしたいか等を伝えることができず、怖さから逃げようとしたり、精神的ストレスからじっとしてよだれを垂らす等が見られる場合があります。猫に配慮し、捕獲後の移動時など、常に冷静で静かに扱います。

    ◆捕獲はケースバイケース
    本ガイドラインは一例であり、縄張りや場所、地域住民の理解度、交通量、気候等により、適切な捕獲方法が変わります。砂利など地面が安定しない場所には、捕獲器の下に安定する物を敷いたり、狭い場所は設置を工夫するなども必要です。捕獲前に必ず現場を確認しましょう。

    最も大切なのは、捕獲器を仕掛ける前に計画を立てること
    現場で慌てず、捕獲する本人が自信を持って行えるよう、事前に計画を立ててください。

    ◆子猫であっても、手掴み/抱き上げによる捕獲はNG
    乳飲み子など自分で動けない月齢の猫は別ですが、手掴みによる捕獲は、あなただけでなく猫にとっても怪我の危険性があります。

    ◆人道的な捕獲器のみを使うこと
    捕獲器は、一度購入すればその後何匹もの動物に影響を与えます。購入をお考えの方は、猫に配慮しドアの閉鎖音が小さい、TNRや保護専用にデザインされた捕獲器がオススメです。
    ※購入に英語のサポートが必要な方は、DeepLやChatGPTなどの翻訳機能をご利用になるとスムーズです。その他のご質問は、お問い合わせよりご連絡ください。

    【海外製の人道的な捕獲器】
    1. MDC(イギリス)
    2. TRUCATCH(アメリカ)
    3. TOMAHAWK LIVE TRAPS(アメリカ)

    ◆一度で可能な限り多くを捕獲できるよう計画する
    同じ場所で捕獲器を設置する回数が多くなるほど、猫が捕獲器を怖がったり入らなくなる確率が上がります。TNRをする際は、可能な限り一度に多くを捕獲するようにします。

    <2.地域の猫と住民を知る>
    ◆地域住民への事前調査
    TNRを始める前に、近隣を観察したり住民から話を聞くことで、全体の頭数や住民と猫の関係、またTNRの依頼をした住民と他の住民の関係等を理解し、よりスムーズに取り組めます。中には住民が捕獲を邪魔したり、外飼いの猫を捕獲してしまうトラブルもあります。地域の福祉向上のためにも、事前調査を行いましょう。

    ◆きっかけは野良猫を見つけたこと
    TNRは、ある日突然思い立って取り組む活動ではありません。その多くは、一般の方が野良猫に遭遇し、気にかけて観察していたら近所に何匹か住んでいることがわかり、何度か同じ場所で見かけるうちに餌付けを始め…という流れで餌やりを始める方が多いのではないでしょうか。餌付けをする場合は、それ以上増えないようTNRをして、地域猫として見守りましょう。

    ◆周囲にTNRの事を伝える
    地域住民の中には、あなたと同じようにどこか違う場所で違う時間帯に同じ猫達を餌付けしている方がいる可能性もあります。TNRはその重要性や役割等も近隣住民に説明した上で行いましょう。口頭で伝えにくい場合や不在のお宅へは、チラシの配布も有効です。(配布用チラシのデータが必要な方は、オンラインショップをご活用ください)

    ◆住民には、フレンドリーかつポジティブにアプローチ
    TNRの前には、近隣やお店等に立ち寄り、TNRの説明や実施の予定について伝えます。猫の外飼いをしている方には、捕獲日に猫を出さないよう伝えたり、手術に反対の方には、反対の理由や猫で困っていることがないか話を聞いてみましょう。猫に庭を荒らされるなど、猫の存在をよく思わない方々もおられます。TNRは頭数を制限し、これらの被害軽減にも繋がることを伝えましょう。

    ◆自分自身の周りの人にも話す
    日本ではまだまだTNRや不妊去勢手術について知られておらず、TNRにより軽減できる問題で悩んでいる人もいます。ご自身の周りにも、TNRという方法があるということを発信しましょう。あなたのメッセージが、どこかの誰かを救うことに繋がるかもしれません。

    ◆連絡を受けられるようにする
    連絡先や個人情報の取り扱いは気をつけたいものですが、近隣を廻る中で、餌付けや情報共有等の協力が得られそうな方とは連絡を取れる状態にしておきましょう。心配な方は、フリーメールで専用のメールアドレスを作成するのもオススメです。

    ◆餌やりさんと繋がる
    餌やりさんがいる場合は、その方に話を聞き、連絡が取れるようにしましょう。あなたがTNR等により猫達を助けたいと思っている旨も伝えるといいでしょう。

    ◆猫の管理(管理シート
    ノートでも構いませんが、その縄張りにいる頭数や年齢、手術歴、健康状態等を記録に残し管理しましょう。TNRは長期的に新入り猫等も手術し続けるため、すぐに効果は現れませんが、記録を残せば、頭数の減少を証明することもできます。(TNRの効果については、こちらをご覧ください)

    <3.様々なケースを想定しておこう>
    ◆子猫
    捕獲の際、子猫を見かけることがありますが、もしその子猫が健康的だった場合は、見当たらなくてもママ猫が世話をしていると考えられます。子猫の生存率はママ猫に育てられた時が一番高いため、保護せずに見守りましょう。子猫が大きくなり、適切な時期になれば、一緒に全頭をTNRしましょう。

    ◆ママ猫
    捕獲器にかかった猫が授乳中だと気付いても、慌てる必要はありません。ママ猫を手術し、可能な限り早く(1日)元の場所に戻せば、ママ猫は子猫の元に戻り授乳を再開します。(※手術前に獣医師の意見も聞きましょう)

    ◆妊娠猫
    捕獲した猫が妊娠中でも、TNRは可能です。多くの場合堕胎になりますが、予約した動物病院で妊娠猫の手術が可能かどうか事前に確認すると良いでしょう。

    ◆病気/怪我の猫
    病気や怪我の猫を捕獲する際は2名以上で取り組み、速やかに必要なケアや判断ができるよう、地域猫に詳しい獣医師の連絡先を事前に確認したり、予期せぬ治療費を集める方法を事前に考えておきましょう。

    <4.捕獲前の餌付けスケジュール>
    ◆捕獲率を上げるため、毎日同じ場所で同じ時間帯に餌付けをします。フードは30分間猫が食べられるだけ食べさせ、その後はフードが残っていても撤去します。また、餌場は人の出入りや交通量が少なく、静かな場所を選びましょう。

    <5.スペイクリニックを見つける>
    1. 金額
    不妊去勢手術やワクチン接種などにかかる金額を、事前に確認しましょう。病院によっては怪我の治療や目薬等、別途必要になる場合があります。また、麻酔を打った後手術済みと発覚した場合、通常麻酔代と耳カット代がかかります。
    2 . 予約の方針
    TNRでは確実に捕獲できる保証がなく、また予定以上の猫を捕獲する場合もあります。直前に予約内容の変更がある可能性に理解のある病院か確認しましょう。
    3. ワクチン
    集団免疫を上げるため、TNRの際は3種混合ワクチンを打ちましょう。3種混合ワクチンは、猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)の感染を予防します。
    4. 耳カット
    その病院で、野良猫の耳カットに理解があり、経験があるか確認しましょう。
    5. 病気/怪我の場合
    予定外の治療が必要な場合の、病院の方針や費用、治療前に確認連絡をしてもらえるか等事前に確認しましょう。また、最終手段として人道的な安楽死に理解がある病院かも聞いておきましょう。
    6. 子猫
    子猫を手術する際の年齢や体重制限がないか、事前に確認しましょう。スペイクリニックでは通常生後2〜3ヶ月、または体重が1キロあれば手術できると言われていますが、個々の状態や病院の方針により異なります。野良猫の手術やTNRの機会があまりない一般動物病院では、生後6ヶ月以降の手術が推奨されます。
    7. 妊娠猫/発情期の猫
    堕胎をしない獣医師もいるため、妊娠猫や発情期の猫の扱いについて事前に確認しましょう。
    また、堕胎は別途料金がかかる場合があります。
    8. その他
    通常捕獲器のまま猫を預けるため、どの猫をどこに戻すか等が混ざらないよう、記載して各捕獲器に貼りましょう。
    9. リカバリー(療養)
    術後に引き取る時間を確認し、性別や個体の状況(堕胎の有無、怪我の有無等)により時間に変更があるか事前に確認しましょう。また、療養させる場所がない場合は、病院で翌日まで預かれるかや、その費用等も確認しましょう。

    <6.リカバリー用の場所を用意する>
    早朝に猫を捕獲、病院へ直行し、手術等を受けた後リリースまでの療養中、病院で預かってもらうケースもあります。しかし、病院以外でも猫がゆっくり休める場所を確保しておきましょう。
    【場所選びのポイント】
    ・23℃前後の室内(多湿を避ける)
    ・他の動物と接触がない隔離部屋
    ・静か(家電の音や交通量の多い外に近い部屋は避ける)
    ・脱走防止策が取られた部屋

    <7.捕獲時に必要なものリスト
    ◆仲間:安全のため、少なくとも2名以上で捕獲しましょう。携帯や懐中電灯を忘れずに!
    ◆捕獲器:猫1匹につき1台。予定にない猫が捕まることもあるため、余分に数台あると便利。駆除用ではなく、閉まる音/勢いが軽減された人道的な捕獲器を使いましょう。
    ※TNR中に捕獲器が盗まれた事例もあります。第三者が簡単にアクセスできる場所に仕掛ける際は、目を離さず遠くから見張れる場所で待機しましょう。捕獲器を盗む人は、ろくなことに使いません。
    ◆捕獲用フード:匂いが強いフードを使いましょう。缶は怪我の原因になるため、捕獲器には入れません。容器を使う場合は紙皿を使いましょう。ウェットフードは、使用後床が汚れたら片付けをしましょう。フードは捕獲器の一番奥に仕掛けます。捕獲器の外から中まで、間隔をあけてちゅーるなどを垂らすと、捕獲器内へ誘導できます。
    ◆ウェットティッシュ/ペーパータオル:掃除用として
    ◆スプーン:餌をすくう用
    ◆新聞紙やペットシーツ:捕獲器の下に敷く用 ※捕獲器の外側からペットシーツをつけると、交換できるため便利です
    ◆ペンとガム/養生テープ:ペットシーツを付けたり、どの猫が入っているか記載し捕獲器に貼って識別するなど
    ◆捕獲器ラベル1:TNRのために仕掛けている旨を大きく記載し、捕獲器の上部等につけておく用
    ◆捕獲器ラベル2:捕獲場所と日時、猫の説明、怪我などの備考を記載する用
    ◆捕獲器カバー:捕獲後、猫を落ち着かせたり防寒用として捕獲器全体をカバーできるもの(大きな布でも可) ※捕獲器1台につき1枚
    ◆結束バンドや紐:捕獲器の扉を開ける猫もいるため、捕獲後は必ずバンド等で締める
    ◆ゴミ袋:捕獲用フードの袋等を入れる袋
    ◆厚手の手袋:捕獲後の捕獲器を運ぶための手袋
    ◆車に敷くもの:捕獲後、猫がおしっこをしたり、吐いた際に車が汚れないようにするためのもの
    ◆バンジーコード:車内で捕獲器が揺れ動くのを防ぐゴム/紐
    ◆忍耐:捕獲には数時間かかる場合もあります

    <8.捕獲器の準備>
    ◆捕獲器は仕掛ける前に、ステップや戸が作動するか必ず確認しましょう。砂利の上などは避け、安定した場所に設置します。捕獲器には、どこで捕獲したどんな模様の猫か等リリース時に役立つ情報を記載するタグと、捕獲器を見かけた人が撤去しないよう、TNR中である事を記載しラミネートした注意喚起を付けておくと良いでしょう。(タグやラミネートが必要な方は、オンラインショップをご利用ください)

    ◆複数匹を一度に捕獲する場合、設置する台数が全て車に乗るか確認しましょう。車内は空調管理し、バンジーコード等で固定できる場合は捕獲器を重ねても構いません。※捕獲後は、猫の足が捕獲器の網に挟まったり排泄物で汚れないよう、捕獲器の底を外側からペットシート等で覆うと良いでしょう。

    <9.病院の予約>
    捕獲する日時を決めたら、可能な限り捕獲後すぐに行ける時間帯で手術の予約を取りましょう。事前に天気を確認し、捕獲にかかる時間を考慮して、捕獲予定と同じ時間帯に毎日餌付けをします。捕獲を試みた結果、予約内容に変更があった場合は、病院に速やかに連絡しましょう。

  2. 捕獲

    <1.捕獲器を仕掛ける準備>
    ◆捕獲器の準備は、猫を怖がらせないよう、捕獲場所や餌場から離れたところで行います。野良猫は人を恐れるため、多くの猫が見ている前で猫が捕獲される状況は避けましょう。猫に与えるストレスを最小限にするため、捕獲から移動、手術、療養、リリースまで、落ち着いて行いましょう。

    ◆猫はお腹が空いている状態の方が捕獲器に入りやすいため、捕獲の24時間前からはフードは与えず、水のみを与えましょう。あなた以外に餌やりがいる場合は、誰もフードを与えないよう事前に情報共有しましょう。

    ❶捕獲する範囲が広い場合、手持ちの捕獲器を数え、どこにどの捕獲器を設置したかメモを取ったり簡単な地図に記載しましょう。捕獲器に番号札を付けておくとわかりやすいでしょう。

    ❷捕獲器の底に新聞紙を敷く場合は、風邪で飛ばないようテープで貼りましょう。

    ❸捕獲器を仕掛ける前に、必ず動作確認を行いましょう。

    ❹捕獲時、尻尾が挟まったりせずしっかり戸が閉まるよう、捕獲器の一番奥に大さじ1ほどのウェットフードか、焼きカツオ等の塊を設置します。フードは直接置くか、使い捨ての安全な容器に入れても良いですが、捕獲直後に猫が暴れることが多いため、散らかって猫が汚れないよう配慮しましょう。捕獲器の奥に誘導するための誘導食(ちゅーる等匂いの強いもの)を、捕獲器の前から転々と設置します。量はちゅーる数滴や小さじ半分ぐらいにして、捕獲器の奥に達するまでにお腹が膨れることのないようにしましょう。

    ❺捕獲器がガタガタ揺れると、猫は中に入りません。地面と同じ高さの安定した場所に設置しましょう。捕獲器が金属でできている場合は、気温や直射日光で表面が熱くなったり、冷たくならないよう工夫しましょう。

    ❻捕獲器を仕掛けたら、猫が安心できるよう、捕獲器の後ろの部分(捕獲器の4分の1)を布などで覆います。ただし、猫が入らない場合は布を外しましょう。

    ❼捕獲器の設置が完了したら、猫が近づけるようその場から離れて見守ります。捕獲器の盗難防止のため、設置したらその場を離れず、必ず目の届く範囲で待機しましょう。

    <2.猫が捕獲器に入ったら>
    ①捕獲器の戸が閉まった直後は、驚いて中で暴れたり、そのショックからよだれを垂らす猫もいます。捕獲器に入った猫が暴れたり怪我をしていても、その場で捕獲器を開けたり、猫を触ることは大変危険です。猫をリリースまでに捕獲器から出すのは、病院で麻酔をし、手術される時のみです。猫が捕獲器にかかったら、静かにゆっくり近付き、捕獲器全体を布やカバーで覆うと落ち着きます。(高温多湿の場合は、通気性の良い布を使いましょう)

    ②同じ縄張りで複数匹の捕獲を同時に行う場合、先に捕獲器にかかった猫を移動させるタイミングは、その時の状況を見て判断します。捕獲器の移動は他の猫を怖がらせる可能性もあるため、猫がいなくなってから移動しましょう。ただし、暑い時期など捕獲器内にいる猫の負担になる場合は、速やかに空調の整った車内に移動しましょう。

    ③本ガイドラインは一例です。捕獲された猫が泣き叫んだりしている場合は速やかに移動するなど、臨機応変に対応しましょう。

    ④捕獲器を置きっぱなしにした場合、捕獲された猫が低体温症や熱中症などにより死亡する可能性もあります。あなたに取って暑い日は猫にとっても暑いと考え、過度なストレスを与えないように配慮しましょう。犬のように口を開けてハアハアと息をしていたら危険な状態と考え、すでに捕獲した猫の体調を優先し病院へ連れて行くなどしましょう。

    ⑤猫によっては、捕獲器に全く入らなかったり、捕獲器の中のフードを上手く取っていく猫もいます。猫の体格に合った大きさの捕獲器を使用したり、ドロップ式など違う形式の捕獲器もあるため、捕獲できなかった場合も諦めずに取り組みましょう。

    <猫の搬送>
    捕獲器にかかった猫の安全に配慮し、予約をした動物病院か、事前に準備した待機場所へ速やかに移動します。車内で大きな音楽をかけたり、大声で話したり喫煙するなど、猫のストレス/負担になる行為は避けましょう。

  3. 術後

    ❶術後、その猫が入っていた捕獲器と同じ物に戻っているか確認しましょう。ワクチン接種の証明書や術後の結果等は記録に残します。

    ❷術後は捕獲器のまま1泊の療養期間を設け、事前に準備した場所か病院でゆっくり休ませます。猫は麻酔から覚めるまで体温調節がうまくできないため、室温を23度前後に保ちます。(※麻酔の種類や覚めるタイミング、リリースのタイミングは、手術を行った獣医師に確認しましょう)

    ❸療養中は捕獲器に布をかけ、少しでも落ち着ける環境を作ります。

    ❹術後は体調が急変する可能性もあるため、1−2時間おきに様子を確認しましょう。出血や嘔吐、呼吸の変化、目が覚めない等が見られた場合は、速やかに手術をした病院に連絡しましょう。

    ❺術後の給餌再開のタイミングは、月齢によっても異なります。獣医師や動物病院で確認しましょう。

    ❻術後一晩休ませたら、明るさに合わせて瞳孔が閉まるかどうか等で麻酔から覚めたことを確認します。獣医師からの注意事項が特にない場合は、術後24時間後にリリースしても良いでしょう。術後は麻酔の影響で、一時的に体温調節ができなくなるため、特に夏や冬などのTNRでは、猫が十分休めたか確認してください。猫にとっては、捕獲器に閉じ込められている事が何よりのストレスです。猫の体調に問題がなければ、速やかにリリースしましょう。

    ❼移動中は捕獲器にカバーをかけた状態で、周りが静かな朝などの時間帯に、捕獲した場所でリリースします。捕獲器を開けると一直線に走って逃げることが多々あるため、捕獲器の向きを安全な方向に向けます。捕獲器を開けて布カバーを外し、立ち去ります。

    ❽リリースが終わったら、フードと水を与えましょう。あなたが餌やりの場合は、通常の餌やりスケジュールを再開します。術後は数日餌場に現れないこともありますが、手術跡が膿んだり体調不良等がないか等、餌やりさんと連携して管理しましょう。

    ❾捕獲器を使用した後は、洗浄、消毒し、カバーも洗います。

  4. フォローアップ

    一度の捕獲で全頭手術ができなかった場合は、残りの未手術猫、新入り猫、子猫たちも順に手術します。餌やりさんや理解のある住民とは引き続き連絡を取り、情報交換して、長期的なTNRを目指しましょう。各地の猫を手当たり次第手術して廻ったり、相談があった遠くの縄張りを一時的にTNRするのではなく、近隣や定期的に通える地域を中心に継続して担当しましょう。

TNRを依頼された場合

「猫が増えて困っています。なんとかならないでしょうか…」
活動をしていると、そんな相談がどこからともなく寄せられます。しかしほとんどの場合、依頼者はTNRの流れや内容、それに必要な労力や時間、費用を把握していないのが現状です。一度無償で引き受けると、“活動家なら無償でやってくれる”と周りへ語り継がれるでしょう。TNRを必要とする現場は多いため、費用の負担などに対して、地域住民の理解や協力を得られる地域から取り組むことを推奨します。

また、TNRは同じ地域で継続して行うことで、効果を発揮する取り組みです。長期的な視野を持ち、TNR依頼は地域住民への啓発の機会として、依頼を受ける前に取り組みの内容や費用を伝えましょう。活動をよりスムーズに行うために、啓発用のフライヤーや費用の一覧を持ち歩くと便利です。フライヤー等のデータが必要な方は、オンラインショップをご活用ください。

TNRで保護が必要なケース

TNRは捕獲した猫を元の場所に戻すことを前提として行いますが、全ての猫をリリースできるとは限りません。TNRをする際は、保護しなければならない可能性があることも念頭に、もしもの場合に対応できるよう、常に余裕を持った保護頭数を保ちましょう。

リリースできない例

・怪我/病気で治療が必要
・容態が悪く、麻酔/手術できない
・幼齢で/体重が足りず手術できない
・ママ猫と一緒に乳飲み子も捕獲した
・目的と違う猫が捕まり、その猫が上記のいずれかであった

無理なく続けるのがポイント

TNRはその効果が目に見えるまでに時間がかかり、一見イタチごっこのように思える活動ですが、自分に無理なくできる範囲でコツコツ行うのがポイントです。一度縄張り内の全頭を手術すれば、その後は子猫だった子や新入り猫をその都度手術することで、全体の頭数をコントロールできます。猫にとっても人にとっても住みよいコミュニティになる事を目指して、無理なくできる事を続けましょう。