ミルクボランティアについて

ミルクボランティアとは

離乳前の子犬や子猫を、「乳飲み子」と呼びます。ミルクボランティアとは、⑴自治体の施設に収容された乳飲み子(およそ生後1〜3週齢)を家庭で一時的に預かり、自力でご飯が食べられる状態になるまで世話をした後に施設へ返却すること、または、⑵母犬・母猫のいない乳飲み子を各自が保護し、育てて譲渡したりする活動のことです。お近くの自治体で登録制のミルクボランティア制度があるかどうかは、お住いの自治体に直接ご確認ください。

ボランティアをする前に

ミルクボランティアになるきっかけは、ご自身や周りの方が乳飲み子を発見・保護したり、興味から自治体施設にミルクボランティアとして登録したりするなど、様々です。乳飲み子のお世話として行う内容は、❶3〜8時間おきの哺乳、❷排泄の補助、❸日々の健康管理、❹ふれあいや遊びなどですが、活動中は夜中に起きて哺乳するなど、同居する人にも影響が出る可能性があるため、可能な限り活動を始める前に趣旨や内容を話し合いましょう。

また、活動開始までに時間がある場合は、冊子「てのひら子猫の育て方」(¥300)で全体の流れや注意点等を確認すると良いでしょう。この冊子には、授乳期、離乳期、離乳後のケア等が記載されているため、特に個人で乳飲み子の保護をした方にオススメです。

活動の流れ(一例)

自治体で登録しボランティアをする場合、以下のような流れで行います。※自治体により詳細は異なります

⑴ミルクボランティア申込み/講習の受講
⑵ミルクボランティアの登録
⑶乳飲み子の受け渡し
→収容される頭数や時期により異なります。お世話に必要な物品はセンターより支給されます。
⑷途中経過確認
⑸離乳完了後、センターへ返却

お世話に必要なもの

活動に必要な物資は、保護や日々のお世話、その他成長過程等によっても異なります。以下は一例ですが、日々お世話をする中でより使いやすい物や個体に合った物を見つけると良いでしょう。

物資リスト

保護の際必要
①段ボールやキャリー
(保護時に乳飲み子を入れたり、保護に使う。段ボールは感染症発生時に破棄しやすい)
②地域の「乳飲み子を診られる動物病院」

お世話の環境づくり
①乳飲み子を温める物 ※保温用具は必ずタオルで包む(低温やけど防止)
 (パイル地は爪が引っかかるためフリース等がオススメ)
→湯たんぽ
→ホット用ペットボトル ※急な保護などの緊急時用として
→電動ヒーター(ママ猫の体温38-39℃に調節可能)
②湿度温度計(タニタが見やすくオススメ)
温度計(ミルク用)
③寝床用ブランケットや毛布

日々のお世話に必要
消耗品
 →ウェットティッシュ、柔らかいティッシュ、タオル(ふわふわがオススメ)
 →フェイスタオル、ハンドタオル、ペットシート
 →計量器(体重を測るため。平らな物は乳飲み子を入れる箱も必要)

ミルク関連
哺乳瓶(※乳首は①ゴム製、②シリコン製がある)
 →ロイヤルカナン(ミルクとセット。瓶が小さい/冷めにくい)
 →森乳サンワールド(ミルボラさんオススメ)
  ※100g以下の乳飲み子はシリコン製では吸えない
   →海外製のミラクルニップル(シリンジに装着)がオススメ
ミルク
 →森永は哺乳瓶の口に入る計量スプーン付きで計量しやすく溶けやすい
 →ロイヤルカナンのミルク缶には、哺乳瓶&スプーンのセットも有
ブドウ糖やガムシロップ(低血糖になった時に時間稼ぐ ※与え過ぎに注意)

参考資料/成長記録
①冊子「てのひら子猫の育て方」※Kindleで無料閲覧可

成長の流れ 〜ざっくり編〜

アメリカの猫の団体Alley Cat Alliesでは、子猫の成長過程をこちらに写真付きでわかりやすくまとめています。(それらのポイントのみを日本語に訳した一覧は、以下の通りです)

子犬の成長(体重等)は犬種により異なりますが、生後10日頃から体重が約2倍になり、目が開き始めます。生後3週間で歩き始め、耳が徐々に機能し始めます。生後4週間で乳歯が生えたり、自力で排泄ができるようになります。

乳飲み子はデリケート

通常乳飲み子は、胎盤や初乳を通して母体から免疫(移行抗体)をもらいます。胎盤経由は約5〜10%、母乳経由は90%と言われ、母乳は生後24時間以内に授乳されたものに限ります。乳飲み子は細菌やウイルスなどに感染しやすいため、古いミルクや細菌がついた哺乳瓶等で下痢をする場合があります。本来母体からの抗体を受けることが重要ですが、特に初乳を飲んでいない個体は極端に弱いため注意が必要です。
どれだけ一生懸命お世話をしても、生後2週間までの死亡率は、母猫が育てた場合で20〜30%、人の手で育てた場合はそれ以上と言われています。主な理由は先天的異常や感染症、環境要因で、死亡する多くの子犬や子猫は低体温症や脱水、低血糖に陥っています。また進行性衰弱症候群により、健康そうに見えても徐々に元気がなくなり衰弱する乳飲み子もいます。乳飲み子の体調に異常が見られた場合は、その時点で乳飲み子を診察できる動物病院や自治体センターに連絡しましょう。そして、その子に合った適切な環境で育てた結果亡くなった場合は、あまり自身を責めず、その子がその子なりの生涯を全うした事を受け入れましょう

成長の流れ 〜詳細〜

◆生後0〜9日
目が開いていない状態で、本来は母親に依存する時期。生後2〜4日で自然にへその緒が取れる。撫でるなどの接触感覚を刺激することで、脳神経や運動能力などの発育が促進されるが、強い刺激は禁物。
<お世話のポイント>
乳飲み子を温かいタオルの上に仰向けにして寝かせ、手を離す。すぐに転がってうつ伏せになれば正常、反応しない場合は低体温や脱水を疑う。(=立ち直り反応)

◆生後10〜2週齢
目が開き、ぼんやり見えるようになる。感覚器や脳神経系が発達し、外界への反応が急激に変化する時期。開いたばかりの目は光に弱いため、直射日光の当たらない場所で管理し、写真のフラッシュなどは使わないよう注意する。
◆生後2〜3週齢
よちよち歩きが出来るようになる。
◆生後3週齢
歯は乳歯が生え始めるため、離乳を開始する。中枢神経系が完成する。探索や運動機能の発達、社会的関係の形成、捕食行動の発達が進む。足腰はしっかりし、トコトコ歩きまわるようになる。動く物を目で追い、音のする物に興味を示し始める。自力で排泄ができるようになる。
◆生後4週齢
グルーミングをしたり、兄弟同士で遊び始める。兄弟同士で甘噛みの加減を覚えるが、一匹の場合はそれができないため、人の手や足を噛んで来た場合は遊びに関わることをやめて助長させないようにする。猫は喉をゴロゴロ鳴らすような感情表現をするようになる。オスは精巣下降が始まる。猫は爪の出し入れが出来るようになる。

飼育環境づくり

乳飲み子のお世話には、⑴暖かさ、⑵適度な湿度、⑶薄暗さが必要です。特に保温は24時間必要で、低体温になると命に関わります。適切な環境を保つポイントを確認しましょう。

新生子お世話のポイント

室温は25℃以上、乳飲み子の周囲は約30℃で管理
ケージは、清潔で身体の2-3倍の大きさの段ボール(←保温性◎)等を使用する
ケージに入れるペットシーツやタオルは、肌触りが柔らかく、汚れたら取り替えられる物を用意
保温器具は、低温火傷を防ぐためタオル等で巻き、段ボールの隅に置く。熱から逃げられるスペースも作っておく
※ただし、弱っている子は温めた方が良いため、暖かくない場所は作らない

<注意点>
新生子は体温が下がりやすく、低体温症になるとミルクを飲まなくなる
・低体温が続くと細菌への感染率が高まり、腸運動が停止したり低血糖になったり、衰弱して死亡する
体温が低下した時はゆっくり温める
・粘膜の色が悪い、心拍数や呼吸数が低下している場合には、酸素吸入が必要になることも
・元気な子は、空腹であれば鳴く叫ぶ ※満腹にも関わらず鳴き続ける場合は、体調が悪いことも

排泄補助

ミルクの前に、ウェットティッシュなどをぬるま湯で湿らせ、尿道口(尿)や肛門付近(便)をトントンと軽く刺激し、尿や便を促します。尿は満杯の場合敷物に擦れた刺激でも出る一方で、便はお腹がいっぱいになった後に、次のミルクが入らなければ出ないことも多々あります。半日尿が出ない場合は脱水、2日間便が出ない場合は便秘を疑い、獣医師やセンター職員に相談しましょう。ただし保護直後はその前の授乳状況により出ないこともあるため、お世話を開始したら毎日の飲量と体重は記録をつけましょう。

新生子の尿は薄い黄色で、臭いもあまりありません。尿の色が濃い場合は脱水の可能性があります。ミルク缶に書かれた希釈通りで与えても尿が濃い場合は、少し薄めてみましょう。便はベージュやクリーム色で、むにむにした感触は正常、水っぽい場合は下痢と考えましょう。健康な状態で水っぽい便が出た場合は、濃い目のミルクを作りましょう。便の排泄を促しても出ない場合は無理にさせず、次回の哺乳時に補助をしましょう。数回の授乳をしても便が出ない場合は、約40℃のお湯に下半身を浸しお尻を指で軽くマッサージすると出る場合があります。

生後3週齢頃までの排泄補助に必要なものは、(ウェット)ティッシュやガーゼ、お湯などですが、離乳を開始するタイミングで、子犬はペットシーツ、子猫はトイレ用砂を用意します。子猫は砂を口に入れたり食べる事もあるため、固まる砂は使いません。最初は新聞紙を切って、猫トイレに入れるのも良いでしょう。

ミルク

哺乳の回数は、成長過程や犬と猫で異なります。目安は以下の通りですが、個体の健康状態や大きさに合わせて回数を調整します。基本は状態に合わせて、欲しがるだけ充分に与えましょう。また、哺乳はうつ伏せの姿勢で飲ませます。乳飲み子の足を台の上に付け、頭〜首の後ろを支えます。誤嚥(ごえん)を起こさないよう、哺乳器と乳飲み子を一直線にし(哺乳瓶は少し上に傾ける)、ゆっくり哺乳しましょう。

哺乳について

【哺乳の注意点】
・子犬と子猫、またはその健康状態に合った専用のミルクを用意する
→※作り方はミルク缶に記載されています
→粉末の塊が残らないよう完全に溶かす
・ミルクの温度は、通常母親の体温(38〜39℃)に合わせる
・ミルクは毎回飲む量だけ作り、作り置きはしない
・哺乳時の”あうあう”、”ちゅぱちゅぱ”は、嫌がっているサイン
・哺乳瓶で飲まない場合は、シリンジを使います
→※シリンジは乳飲み子のタイミングで飲めないため、誤嚥に注意しましょう
・使用後の器具は洗浄、消毒し、清潔に保管する

【回数の目安】
◆生後6〜10日
<犬>6〜7回
<猫>5〜6回(約4時間おき)
◆生後11〜15日
<犬>6〜7回
<猫>4〜5回
◆生後16〜25日
<犬>5〜6回
<猫>4〜5回
◆生後26日〜
<犬>5〜6回
<猫>3〜4回(一度に飲める量が増えます)

乳飲み子はお腹がいっぱいになり満足すると、よく寝ます。お腹が空くと動き出すので、哺乳時間のサインにもなるでしょう。鳴く時は、お腹が空いている以外に体調が悪い、寒いなどの理由も考えられます。鳴き続ける場合は、早めでも哺乳しましょう。

離乳食

順調に体重が増えれば、通常生後約3週齢から離乳食をスタートします。歯茎に軽く触れ、乳歯が生えてきていれば開始のサインです。開始後2週間程度は、哺乳も同時に行います。最初は食べなくても離乳食を用意し、一口からスタートしましょう。逆にもっと欲しがっても、便の様子を見ながら少しずつ増やします。
初めての離乳食は以下がオススメです。最初は消費量が少ないため、小分けにして冷凍保存すると良いでしょう。
<犬>ロイヤルカナン スタータームースなど
<猫>ロイヤルカナン ウルトラソフトムースなど

離乳食について

初めて離乳食を与える際は、スプーンで与えたり、上顎に擦りつけたり、小山を作って舐めやすくするなどの工夫が必要です。

【与え方の目安】
◆離乳食開始1〜3日目
→離乳食ひと舐め1回 + 哺乳4回
◆3〜4日目
→離乳食2〜3舐め1回 + 哺乳4回
◆5日目以降
→便の様子を見ながら、離乳食の量と回数を増やす

記録

健康管理の記録は、1日1回体重測定や体調等を記録します。初めてミルクボランティアをされる方は、ミルクや離乳食をあげた時間や量、排泄補助の内容を記録すると、大体の1日の流れが把握できます。体重は食事や排泄の前後で差が出るため、毎日決まった手順の後に測ると良いでしょう。健康な子であれば、体重は毎日少しずつ増加します。その子のいつもの量を飲まない、下痢や嘔吐をする、体重が増えないなどの場合は、獣医師やセンターへ相談しましょう。

低体温症/低血糖症

<低体温症>
直腸温が35℃を下回ると起こるのが、低体温症です。体温が低下すると腸の活動が低下し、ミルクを飲まなくなったり、腸閉塞が起こりやすくなります。低体温時には給餌をせず、まずはゆっくり保温して温めます。(※急激に温めると臓器不全を起こす可能性があるため、注意しましょう)低温火傷に気をつけながら、ドライヤーで表面を温めましょう。体温が上がると動き始めます。

<低血糖症>
乳飲み子は肝機能が未熟なため低血糖症(血糖値が50mg/dl以下の状態)を起こしやすく、鳴き続けたり、元気がない、痙攣、虚弱などの症状が見られます。これらの症状に気付いたら、適切な処置を施すため獣医師やセンターに連絡し、受診しましょう。移動中も保温できるよう、カイロや熱いお湯を入れたホット用ペットボトルを、タオルで包み、キャリーなどに入れましょう。

脱水症

乳飲み子は腎機能が未熟なため、水分摂取量が少なかったり、下痢や嘔吐が続くと脱水を起こします。皮膚をつまんだ際1〜2秒以上皮膚が元の位置に戻らない場合や、尿の色が濃い、歯肉などの粘膜が蒼白の場合は、脱水を疑いましょう。応急処置として人間用のスポーツドリンクを5~10倍に薄めて飲ませる方法もありますが、必要に応じて受診しましょう。

様々な情報を集めよう

ミルクボランティアは、生まれたばかりのとても繊細な命を扱います。初めての際はどなたでも不安や心配があると思いますが、乳飲み子を診てくれる動物病院を探したり、夜間や緊急時の連絡先をまとめるなど、事前に様々な想定/準備をしておくと良いでしょう。

本ページに記載している内容はほんの一例です。母親と一緒に保護した場合や、兄弟でお世話する場合など、日々のお世話はケースバイケースです。目の前にいる子をよく観察し、その子にとって適切な方法を選びましょう。そしてわからない点や気になる異変などがあれば、迷わず獣医師やセンターに連絡し、受診してください。